2012年05月26日

労働組合がない職場の三六協定

 従業員の過労自殺問題で揺れているワタミですが、自殺した従業員が働いていた職場で三六協定の手続きに問題があったようです。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2012051702000093.html


 あらかじめ時間外労働の上限時間が書き込まれた三六協定届に、店長の指示でアルバイトが署名する−。新入社員森美菜さんが過労自殺したワタミフードサービスでは、違法な手続きで、従業員に時間外労働させていた。会社から一方的に提示された労働条件を、受け入れるしかない従業員。労使対等とは名ばかりの実態が浮き彫りになった。

 森さんが働いていた
「和民京急久里浜駅前店」(神奈川県横須賀市)。この店の三六協定届には、労使協定を結ぶ労働者側の
代表は、「挙手による選出」と印字されていた。しかし、男性アルバイトは「協定届を見たことはないし、挙手で代表を選んだこともない」と打ち明ける。

 「会社側から三六協定の説明を受けたことはない」。首都圏で店長や副店長を務めた男性(30)も、そう証言する。男性は同意した覚えのない協定届を根拠に、毎月三百時間ほど働いていた。ある現役店長は「全従業員の意思を確認する時間もない」と明かす。自分の店の時間外労働の上限を知らない店長までいた。
ワタミによると、毎年の協定更新の際、店長が経験の長いアルバイトの中から代表を指名。すでに時間外労働の上限時間が記載された協定届を印刷し、アルバイトが署名をして本社に返送するやり方が常態化していた。

 
ワタミの辰巳
正吉・ビジネスサービスグループ長は「大きな不都合やクレームは起こらなかったので、踏襲してきてしまった」と話している。

 
<三六協定> 時間外労働を例外的に認めた労働基準法36条の規定から取った通称。同法で定める労働時間は1日8時間、週40時間。この時間を超えて働かせるには、労使合意に基づき書面で上限時間などを定めた協定を結び、労働基準監督署に届け出ることを36条で義務付けている。協定にも月45と時間の上限はあるが、上限を超えて働かせられる「特別条項」もあり、労使の力関係で時間外労働は青天井になりうる。

 (引用終わり)

 
別にワタミを弁護するわけではありませんが、いわゆる過半数組合の存在しない職場における「労使協定を結ぶ労働者側の代表」選出の実態は、多かれ少なかれこれに似たようなものだというのは、ちょっと労働問題に詳しい人なら常識の範疇です。「労使対等とは名ばかりの実態が浮き彫りになった」というのはその通りでしょうが、労働組合が存在しない職場では、実際の労使の力関係はもちろん、労使合意に至る手続きの踏み方でさえ「労使対等」が成立していることのほうが珍しいというのが実態です。あえて付け加えれば、労働組合が存在する職場であっても、真の「労使対等」を実現させるには、労使、特に組合側の相当な努力が必要だということも申し添えておかなければなりません。

 誤解しないでほしいのですが、私は、
ワタミの三六協定の手続きの不備は、労働組合がない職場であればどこでもやっていることなので、あれこれ騒ぐほどのことではないと言っているわけではありません。毎月三百時間も働かせていたのが事実だとすれば、明らかに常軌を逸しています。ワタミは批判されて当然でしょう。ただ、この問題はワタミを叩けばそれでOKという話ではないと思います。将来のある若い従業員を死に至らしめた事件の重さを考えれば、「悪者探し」にとどまらず、過半数組合がない場合の労働者代表制の在り方について、より本質的な議論を行うべきでしょう。私が言いたいのは、そういうことです。

 
ちなみに、連合は、すでに2006年に、この問題について「労働者代表法案」の要綱をまとめています。詳細は連合のホームページに載っていますので、興味がある方は以下でご確認ください。
http://www.jtuc-rengo.or.jp/roudou/seido/daihyou/data/20060615.pdf



posted by 会長 at 00:36| 岡山 曇り| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年05月25日

岡山県労福協第36回定期総会 会長あいさつ

 私は、連合岡山会長と合わせて、岡山県労福協の会長も兼務しています。

 その岡山県労福協の第36回定期総会が5月24日に開催されました。総会の冒頭で、労福協会長として挨拶をしましたので、その全文を掲載します。現在の県労福協の状況や課題について触れています。


 本日は、たいへんご多忙の中、岡山県労福協第36回の定期総会にご参集を賜り、誠にありがとうございます。日頃より、労福協の活動にたいへんなご理解とご尽力を賜っておりますことに厚く御礼を申し上げます。また、あわせて、本日私どものために駆けつけていただきましたご来賓の皆様にも、この場を借りて御礼を申し上げます。

 
さて、私は、いま岡山県労福協の活動は、いろいろな意味で大きな転機を迎えていると思っています。総会の開催にあたり、私がもっている問題意識についてお話しし、ご挨拶にいたします。

 
まず、大きな変化として、岡山県労福協は今年の秋、遅くとも来年の春には「一般社団法人」に移行することが挙げられます。この移行は、最終的に「公益法人」に移行するための第一ステップと位置づけられています。つまり、私たちの活動には、これまで以上に「公の利益」に資する活動が求められることになるわけです。内向きな発想に終始することなく、会員団体や労働組合の組合員はもちろん、地域のすべての働く者のための、開かれた活動を推進していかなければなりません。2012年度、岡山県労福協は、「公益目的」事業を展開する団体としての第一歩を踏み出します。活動に関わる全員で、新たな歴史をつくっていきたいと思います。

 
また、昨年から今年にかけて、岡山県労福協が展開してきたいくつかの事業が終了したことも、私たちの活動にとって大きな転機といえるでしょう。倉敷労働会館の指定管理は2011年3月で、児島労働会館の指定管理は2011年9月で、いずれも契約満了となりました。厚生労働省の委託を受けた「病児・病後児預かり対応基盤整備事業」も2012年3月で終了しました。岡山県の緊急雇用対策事業として受託した「まちかど労働相談事業」は2012年3月で事業が終了しましたが、連合岡山の政策・制度の要請等の効果もあり、同基金事業として「労働関係相談事業」として岡山、倉敷の2か所で2013年4月まで継続されることになりました。近年、行政改革等の流れが強まり、国や県、市などの従来の勤労者向けの福利厚生事業は、残念ながら縮小、廃止の傾向にあります。当労福協は、これら国や自治体のいくつかの事業を受託してきましたが、このような勤労者福祉行政の変化は、私たちの事業展開に大きな影響を与えています。当労福協はこれまでの事業を総点検し、会員団体や地域の働く者にとって付加価値の高い「公益事業」とは何か、そして、それをどのように展開していくか、について改めて検討すべき時期に来ていると思っています。引き続き、連合岡山とも連携し、政策・制度要求等を通じて、行政による勤労者福祉事業の継続・充実を求めていきますが、一方で財政事情が苦しい行政が行う事業は、今後、より不安定なものにならざるを得ないことは理解しておくべきでしょう。今後の事業展開においては、行政からの事業受託や助成は「+α」と捉え、そのうえで、どうしたら持続可能な「公益事業」が実行できるか、その方法を考えたいと思います。「自前で全部やる」ことにこだわらず、労働問題や消費者問題などに取り組む各種団体やNPOなどと連携し、同じ問題意識を共有する地域のネットワークの輪の中で一定の役割を発揮する、というような取り組みも検討されるべきでしょう。いずれにしても、当労福協の事業そのものの再構築が大きな課題となっています。これは、当労福協の存在意義を問う、大変重い、そして重要な課題です。

 
もう一つ、転機という点では、本総会をもって、これまで4年にわたり当労福協の活動を支えていただいた西田事務局長をはじめ、妹尾次長、稲谷次長の3人が理事を退任されるということも、私たちにとって大きな出来事です。優秀な事務局の皆さんのおかげで、当労福協の実務は着実に、そしてスムースに運営されてきました。この場を借りて、改めて、そのご功績とご苦労に敬意を表しますとともに、感謝の意を捧げたいと思います。

 
最後に、皆さんのご議論により、本総会が実り多きものになることを祈念し、ご挨拶といたします。


 
posted by 会長 at 13:56| 岡山 曇り| あいさつ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年05月24日

Appleのメッセージ

 興味深い記事を発見したので、ご紹介します。
http://r25.yahoo.co.jp/fushigi/jikenbo_detail/?id=20120511-00023703-r25

 iPhone
iPadといった魅力的な製品を次々と世に送り出し、働きたい企業ランキングなどでは必ず上位にランクインするApple社の「入社時のメッセージ」なるものがネット上で話題になっている。

 
メッセージを紹介したのは、SEO情報ポータルサイトの『SEO Japan』。同サイトは7日、「Appleが新入社員に初日に渡すメッセージ」という記事で、新入社員が受け取る。

 決して妥協しない仕事。週末を犠牲にしてでも取り組みたい仕事。
 
Appleではそんな仕事をすることができる。
 
無難に人生を過ごしたい人はここには来ない。
 
仕事で何かを成し遂げたい人がここにいる」
 (原文は英語。SEO Japanが翻訳したものを一部抜粋)

 
といったメッセージを紹介し、ツイッター上では、
 
 
「すばらしい!」
 
「良いメッセージ。仕事とは本来こういうもの」
 
「すべての職場でこんな気持ちで仕事をしたいものです」

 
など、1600人以上がこのメッセージについてツイート、Facebookでは1万人以上が「いいね!」を押している。

 
ただし一部には、このメッセージに違和感を覚えた人もいる。人事コンサルタントの常見陽平氏は8日、論壇サイト『アゴラ』に「アップルが新入社員に渡すメッセージがブラック企業みたいな件」というコラムを寄稿し、

 
「アップルの名前がなければ、最近話題の『明るいブラック企業』にそっくり」
 
「メッセージの中で、『週末を犠牲にしてでも取り組みたい仕事』には吐き気を催す」

 
と、Appleのメッセージはブラック企業的であるという説を展開している。

 
これに対して、ツイッター上では600以上のツイートがよせられ、「入社した時にこれ渡されてたら、アップル好きな僕でも引いたかも」
と、同調する意見がつぶやかれている。ネット上では「Appleはブラック企業か否か」論議が今も続いている。

 (引用終わり)

 
ここで話題になっているApple社のメッセージの全文の日本語訳はこちらで見ることができます。
http://www.seojapan.com/blog/apple-note

 仕事。あなたの人生の仕事。
 
 あなたの指紋が残った仕事。決して妥協しない仕事。週末を犠牲にしてでも取り組みたい仕事。
 Appleではそんな仕事をすることができる。無難に人生を過ごしたい人はここには来ない。
 一番深い所まで泳ぎたい人だけがいる。仕事で何かを成し遂げたい人がここにいる。

 何か大きなこと。他の場所では起こりえない何かを。

 - Appleへようこそ。

 (引用終わり)

 
私は、Appleの労務管理の実態について全く知らないので、Appleが「ブラック」かどうかは判断できません。ただ、株式時価総額が世界屈指の、「超」が付く優良企業ですから、仮に時間外労働や休日出勤を含め労働時間が長く、また仕事上求められるスキルや成果のレベルが高いにしても、それに見合うだけの相対的に高い労働条件(賃金や福利厚生、ストックオプションなどに加え、あのAppleの社員であるという世間的な評価等も含め)が備わっているのではないかと思っています(私の勝手なイメージですが)。

 使用者は労働基準法を守る義務がありますし、賃金不払い残業などは根絶すべきですが、実際に働く側の感情としては、労働時間管理がある程度ルーズでも、全体として世間水準に比べ相当に高い労働条件が担保されているのなら、「ブラック」とまでは表現しないような気もします。まぁ、これも「程度の問題」で、いくら条件が良くても、過労死するまで働かされたらたまりませんが。

 
Appleが「ブラック」かどうかはともかく、「仕事と思うな、人生と思え」みたいなスローガンを掲げ、寝食を忘れて仕事に没頭することが人生における成功につながるかのようなメッセージを発信する会社には、結構「ブラック」な会社が多いのではないかという印象を持っています。社長が成功哲学を語ること自体は悪いことではありませんし、その言葉に感動し影響を受ける従業員がいても結構ですが、それが「成長や成功のためには、労働基準法や労働基準監督署なんて関係ない」みたいな方向に発展したら、それはやはり「おかしい」と疑ってかかるべきでしょう。36協定などの手続きを経ない時間外労働やいわゆる「サービス残業」などは、明確な違法行為です。「成功のためには違法行為も仕方ない」と考えるような会社は、一般的に良識のある会社とはいえないでしょうし、あまり度が過ぎると「ブラック」ということになるのでしょう。引用した記事に出てくる常見陽平氏のコラムには、以下のような指摘があります。

 企業は従業員のモチベーションアップに躍起になっている。

 「
従業員にいきいきと働いてもらいたい」そういう願いはもちろん、ある。そのために、従業員を表彰する機会を設けたり、様々なレクを行ったりする。ただ、やや意地悪な見方かもしれないが、所詮企業は継続的な利益の追求をする集団である。モチベーションアップも、従業員満足度向上も所詮は利益のためであると、冷静に考えたいものだ。
 
 (引用終わり)

 私も、単組の役員時代は労使協議会などで従業員のモチベーション向上策について経営側と様々な議論をしてきました。個人的には、企業が従業員のモチベーション向上に取り組むことは望ましいことだと思っていますが、常見氏の「意地悪な見方」も一面の真理であり、企業が従業員のモチベーションをコントロールすることのリスクについては注意が必要でしょう。

 労働相談を受けていると、
「仕事は楽しいから頑張ろうぜ!」「ウチは社会を変える会社だ!」とやたらとやる気に満ちた「明るいマインドコントロール」を駆使し、休日勤務手当や時間外手当も払わず従業員を長時間働かせているケースに遭遇することがあります。このような会社は、労働関連法規を遵守している会社に比べ、人件費を低く抑えることが可能です。労働集約型の業界では、「明るいマインドコントロール」による不当な人件費抑制が、そのままコスト競争力の源泉になっているということもあるのではないでしょうか。例えば、外食大手の○○○とか・・・!?

 
仕事そのものや仕事によってもたらされる報酬や名誉に魅力があって、週末どころか盆も正月もなく仕事に没頭するということもあるでしょう。そのような仕事に巡り合えたことで、その人の人生がより充実したものになるということも否定はしません。「ワーカホリック」という言葉があるように、仕事には、そういう麻薬のような魅力があるのは事実だと思います。正直にいえば、私自身にも、(特に若いころは)その傾向はありました。

 
ただ、そういう仕事の持つ刺激的な側面や、仕事を通じて人生を充実したものにしたいというポジティブな労働観を利用して、労働者を安く、こき使うというやり方は決して許されるものではありません。「やりがい搾取」「明るい過労」に対し、私たち労働組合は、はっきりNO!と言わなければなりません。

 
ところで、企業全体がこのように「ブラック」化しているケースもあれば、普通の会社に勤めていても、たまたま上司がこの手の「明るいブラック」的なノリだったという場合もありえます。私は、幸い、直属の上司・部下という関係でこの手の人に仕えたことはありませんが、労働組合の役員として、こういうタイプの管理職と向かい合ったことは何度かあります。私の経験では、この手の「明るいブラック」上司はパワハラ的なマネジメント手法を駆使する傾向が強く、メンタル的にまいってしまう部下や退職者が続出したりして、中長期的には職場の活力が落ちてしまう事が多いような気がします。

 
そういうトラウマもあって、個人的には、「明るいブラック」系の会社や個人には、共感よりも先に警戒感や鬱陶しさを感じてしまいます。私は、Appleのメッセージに「ブラック」企業的な悪意があるとは思いませんが、積極的に「いいね!」を押す気にもなれません。
posted by 会長 at 13:46| 岡山 | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする